元代表キャンベル監督就任で人種問題改善なるか

<フットボールの母国から:第13回> 去る11月28日に発表された、ソル・キャンベルのマクルズフィールド監督就任。
強いて言えば、リーグ2(4部)で最下位に落ちていたマクルズフィールドにはもったいないという程度の話題性だっただろう。にもかかわらず、今回のキャンベル就任そのものが騒がれたのは、引退7年目にして初の監督挑戦となったから。そして、数少ない“BAME”監督の誕生を意味していたからに他ならない。
“BAME”とは、「黒人、アジア人、及び少数民族の頭文字を取った言葉で、英国では一般的に使われている。多民族国家が抱える人種差別問題を論じる紙面などでは頻繁に目にする。各紙のスポーツ面でも同様だ。」
今季を例にとっても、国内プロリーグ(プレミアからリーグ2まで)所属92チームにおける非白人監督は、キャンベルが8人目。サッカーの母国では、遅ればせながら、計92名の監督陣に占める割合が1割にも満たないという、不平等を是正すべきだとの意識が高まり始めている。キャンベルの「就職難」が差別の結果だとは言い切れない。
現役当時から、自信家で誇り高き男として知られたキャラクターが、人選を行うクラブ経営陣の目に「扱いにくい」と映った可能性はある。この夏に読んだピーター・クラウチの自伝では、ポーツマス時代にチームのマッサージ師2名を独り占めにするキャンベルが、クラウチらしいユーモアのある語り口で紹介されていた。監督としても、実力レベルが自身の現役当時に及ばない選手たちを見下すような態度を取れば、求心には一苦労するに違いない。
とはいえ、キャンベルの実績と、引退後に早くから監督志向を口にしていた事実を考えれば、やはり肌の色の違いが不利に働いたという見方も否定し難い。筆者のような日本人も、英国では少数派の人種だ。直接的に差別を感じたことはないが、同時に、英国では少数派の人種だ。
自分が英国で生まれ育っていたとしたら、よく言われるように、高校卒業資格に相当する試験の成績が同じでも、白人の学生と比べて希望の大学には進みにくいと感じただろうか? 西洋風ではない名字が、就職活動での書類選考でハンディになっただろうか? そんなことはなかったはずだ、とは言い切れないのが正直なところだ。英国社会の中でも、サッカー界は特に「白人男性の世界」としての歴史が長かった。90年代以降、外国人選手数の急増もあって、黒人選手の存在が当たり前にはなっている。
キャンベルが守備の要だった当時のアーセナルにも、ティエリ・アンリというスーパースターがいた。だが監督は、周囲から「ボス」と呼ばれる存在。白人が大半を占める各クラブ経営陣の目が、長らく無意識のうちに白人の監督候補に向いていたとも考えられる。
キャンベルがクラブ史上3人目の“BAME監督”となったマクルズフィールドは例外とも言えるが、それでも、前月上旬からの暫定体制下でセミプロリーグへの降格が危惧される状況でなければ、キャンベルには声が掛からなかったとする見方もある。国内のプロ監督界における不平等の改善を目指す具体的な動きはある。代表コーチング・スタッフに占める非白人指導者の割合を、現状の13%から20%に引き上げるといった目標を掲げる、FAによる3年計画もその一例だ。
しかし、キャンベルが願う、「黒人監督ではなく、単なる新監督として普通に受け止められる状況が現実となるまでには、まだまだ長い時間を必要とする。もっとも、就任会見での当人は、人種差別的問題に関する憤りではなく、監督初挑戦の機会を得た喜びを前面に押し出していた。その前向きな姿勢に習って言えば、“BAME監督”を取り巻く状況も「上向くのみ」といったところか。
リーグ2の底から順位上昇にまい進するしかない、キャンベル新監督率いるマクルズフィールドと同様に。(山中忍通信員)◆山中忍(やまなか・しのぶ)1966年(昭41)生まれ。青学大卒。
94年渡欧。第2の故郷西ロンドンのチェルシーをはじめ、サッカーの母国におけるピッチ内外での関心事を時には訳文としてつづる。英国スポーツ記者協会及びフットボールライター協会会員。
著書に「勝ち続ける男モウリーニョ」(カンゼン)、訳書に「夢と失望のスリー・ライオンズ」(ソル・メディア)など。

 
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요시다유키히로 ЁсидаЮкихиро @yshdykhr

「元代表キャンベル監督就任で人種問題改善なるか」(山中忍/ニッカン181204) 「サッカーの母国では、遅ればせながら、計92名の監督陣に占める割合が1割にも満たないという、不平等を是正すべきだとの意識が高まり始めている」

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